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2010年度

「泣いた」「笑った」「感動した」図書館職員が読書体験の中から紹介する珠玉の1冊

『ミーナの行進』小川洋子/著(中央公論新社)

1972年春、中学生になった「私」が従姉妹のミーナの住む芦屋のお屋敷に預けられるところからこの物語は始まります。
病弱で本好きな少女ミーナとその家族との日々が丁寧に描かれていきます。
大人になって振り返ったとき、どれだけ大切な時間だったかがわかります。
同じ年代を過ごした者として、子どもの頃の懐かしい思い出や気持ちがよみがえってきてホロリとさせられました。
装丁や挿絵も心温まります。(K)


『子どもの図書館』石井桃子/著(岩波書店)

2008年に101歳で亡くなった石井桃子さんが書かれて、全国に子ども文庫を作る波が広がるという大きな影響を与えた本です。
「くまのプーさん」の翻訳で有名な石井さんが、自宅に作った「かつら文庫」の7年間の記録ですが、とにかく子どもたちの様子をよく見ていることに驚かされます。
また、すばらしい活動を展開しながらも限界を感じ、公共図書館に期待することが書かれていて、図書館職員として襟を正して読むべき1冊。(I)


『酒呑みの自己弁護』山口瞳/著(新潮社)

この本は、数々の有名作家が夕刊紙に連載していたエッセイをまとめた中の一冊です。
山藤章二の挿絵も毎回、軽妙かつ批評が効いています。
他の本は題名を忘れたのですが、これはいつまでも印象に残っています。
単行本のあとがきによると名付けには大変な苦労があったようです。
洋酒会社宣伝部出身の著者ならではの美味しくて楽しく呑める、お酒との節度のある付き合い方を教えてもらえる本です。(M)


『赤毛のアン』
ルーシー・モード・モンゴメリ/著 村岡花子/訳(新潮社)

中学1年の春でした。
小学生の頃からずっと見ていたテレビのカルピス劇場で「赤毛のアン」の放送が始まりました。
毎週放送を見るうちにアンの世界に夢中になり、初めて親に頼んでシリーズ全10巻を買ってもらいました。
夏休みに全10巻を読破し、その後も何度も読み返し、早30年。
今も自宅の本棚に並んでいます。
そしていつか舞台となっているプリンスエドワード島へ行きたいと思っています。(よ)


『寛永主従記』田宮虎彦/著(明治書院)

何かから逃避するかのように、読みやすく頭を使わなくていい本ばかり読んでしまうことに飽きて虚しさを感じている方にお勧めです。
長い間仕えてきた主家を結果的には背いてしまうまでの主人公の苦悩、その後の身のふるまいの鮮やかさ。
明るい話ではありませんが、無駄なものが省かれた文章は、読む者を引き込み、清冽な印象を与えてくれます。読後は一陣の風が吹いたかのようです。(N)


『英国紅茶への招待』
出口保夫/著 出口雄大/イラスト(PHP研究所)

寒い冬には温かい飲み物が嬉しいものです。
みなさまは紅茶はストレート、レモン、それともミルク?
私は断然ミルクティー派。
それは高校時代にある一冊の本に出会った事にはじまります。
それが出口保夫さんの紅茶の本でした。
この本には英国紅茶の入れ方、茶器のいろいろ、紅茶の歴史などがすてきなイラストとともに紹介されています。
慌ただしい毎日だからこそ、ゆったりとした時間を過ごしたいですね。(ち)


『ジェイン・エア(世界文学全集1−6)』
シャーロッテ・ブロンテ/著(河出書房新社)

中学生の頃、大人の本が読めると気負って、友人達とあれも読んだ、これもと数を競い合いました。
文学全集を買ってもらい、読みふけりました。
ただ文章を追っているだけで、内容を理解していたとは思えないのですが。その中で、何度か挑戦しても読めなかったのがこの本です。
大人になって読み終えた時、どうしてこんなにおもしろい小説が読めなかったのか不思議でした。
今でもその理由は分かりません・・・。(y)


『デューク』江國香織/著(講談社)

21才になる主人公は、愛犬が死んでしまったので、悲しくて泣きながら街を歩いています。
そんな時、電車の中で席を譲ってくれたハンサムな少年と1日一緒に過ごすうち、不思議なことに気づきます。
作者の初期の短編に山本容子が画を添えて、小さなサイズの大人向きの絵本になりました。
しんとした寂しさと、アイスクリームを舐めた後のような甘くて爽やかな読後感が残る1冊です。(Y)


『世界の古代遺跡』アンリ・スティルラン/編・著(創元社)

世界の古代遺跡を空から見た写真集です。
一つ一つの遺跡の写真が折り畳まれたかたちでおさめられていて、広げてみると、ストーンヘンジやピラミッドなどの古代建造物の壮大さをより感じることができます。
古代の人には想像もできなかった上空からの風景を見る時、なんだか神様にでもなったようなわくわくした気分を味わえます。
空から見る驚異の歴史シリーズの1冊で、他に「世界の城と要塞」などがあります。(N)


『「あぐり美容室」とともに』吉行あぐり/著(PHP研究所)

NHKの連続テレビ小説「あぐり」のモデルである著者のエッセイです。
98歳まで現役美容師をしていたスーパーウーマンの著者。
2002年当時94歳の著者が記しました。
美容師という仕事、家族、高齢になってからの生活がつづられています。
近所のおばあちゃまと話しているような親しみやすい内容です。
元気に長生きしている女性の心のありようは、まるで先輩からエールをもらっているようです。(Y)


『ピクウィック・クラブ』チャールズ・ディケンズ/著(三笠書房)

温かい眠りの前に少しずつ読むのが楽しみな長編です。
慈愛と正義感に満ちたイギリス紳士ピクウィック氏といささか頼りないお仲間たちが繰り広げるちょっとトンチンカンな冒険旅行。
ロマンスあり、勘違いあり、それが、訴訟や決闘騒ぎにまで発展していきます。
イギリスの文豪ディケンズの人間描写は、明日も万事秋晴れと言っているようです。(お)


『河童が覗いたヨーロッパ』 妹尾河童/著(新潮社)

さすが舞台美術家!とうならせるデッサンの数々。
河童さんが1年間ヨーロッパを旅して泊まり歩いたホテルの部屋や国際列車の車掌さんの姿などがなんとも味のある絵と手書きの文字で描かれています。
現地の人たちとの会話から見えてくるお国柄も、おもしろくもあり考えさせられたり。
旅心をくすぐられること必至の1冊です。(F)


『一九七二「はじまりのおわり」と「おわりのはじまり」』
坪内祐三/著(文藝春秋)

南沙織が、1971年の紅白歌合戦で「潮風のメロディー」を歌った日、連合赤軍の榛名ベースでは「総括」という名の連続リンチ殺人事件の最初の犠牲者がでました。
彼らが最後に立てこもったあさま山荘のカラーテレビで見たのは、ニクソン大統領の訪中でした。
時代は確かに動いていました。
沖縄返還、「恥ずかしながら」と帰ってこられた横井庄一、札幌オリンピック、日本プロレス崩壊、ぴあ創刊、ロマンポルノ摘発、日本列島改造論、日中国交回復など硬軟とりまぜ、変革の年・1972年の全体像を、自分史もまじえて描きます。


『枕草子 上・下(新潮日本古典集成)』
清少納言/著 萩谷朴/校注(新潮社)

枕草子は中宮定子へ捧げる高らかな讃歌ですが、政争の末に迎えるその悲劇には触れようとしません。
萩谷氏の細やかな解説は、一時は去就を迷いつつも中宮と運命を共にする清少納言の姿をうつし出します。
中宮没後晩年には零落説もある清少納言ですが、それは「女ひとり住むところはいたくあばれて」いるのがよいとした人のこと、むしろ自身の主義主張によるものであったかも知れないと氏は注釈するのです。(m)


『遺品整理屋は見た!!天国へのお引越しのお手伝い』
吉田太一/著(扶桑社)

肉親との別れの折に、何かに縋るように読みあさった宗教書や老いに関する書籍とともに、ふと目に留まった1冊です。
ふとしたきっかけで、引越し屋さんから遺品整理の専門業者となった著者は、引きこもりや少子化による孤独死、はたまたごみ屋敷や遺産争い等など、壮絶な死体現場から見え隠れする、現実社会の歪みを目の当たりにし、その見直しを身をもって社会に問いかけます。(竹)


『聖(さとし)の青春』大崎善生/著(講談社)

村山聖は羽生善治と同時期に頭角を現し、「羽生を倒すのは村山だ」と言われるほどの棋士でした。
幼少のころからネフローゼという難病に苦しみ、29歳で癌に倒れました。
彼の将棋に掛ける思い、両親兄弟、師匠の支えを静かに語っている著書です。
短い一生ではありましたが、輝きは鮮明で私は何度読み返しても胸が熱くなります。
将棋を知らない人でも大丈夫。
テレビでドラマ化もされています。(keikei)


『文章読本』谷崎潤一郎/著(中央公論社)

最初の一語から、章のおわりまで、まるで一本の糸で言葉をつなげたように、よどみなく文章がつながっていく。
引用される文章には、難しい言葉が出てくるが、本文は誠にわかりやすく平易である。
読んでいて肩の凝らない、気持ちのいい文章。
使われる語彙は日常語(昭和九年当時の)。
日本語というのは、少ない言葉でこんなにも豊かな表現ができるのか。
メールなどことばが氾濫するご時世にこそ、参考にしたい本。(I)


『大河の一滴』五木寛之/著(幻冬舎)

「生きる」とはどういうことか?知人の死をきっかけに、そのことをしきりに考えていた頃に読んだ本です。
何とか前向きに生きたいと思う。
しかし、プラス思考はそう続かない。
頑張ることにはもう疲れてしまった−。
この本はそういう人の為に書かれたそうです。
「人生は苦しみと絶望の連続だとあきらめることからはじめよう」と。
この言葉の真意はすぐには理解し難いのですが、何となく前向きになれる本です。(K)


『自由からの逃走』エーリッヒ・フロム/著(東京創元社)

高校生になった頃、中学の恩師から紹介されて読んだ1冊です。
フロムはドイツ生まれ。
新フロイト主義の心理学者として学界に重要な位置を占めていましたが、ナチに追われアメリカに帰化しました。
この本は全体主義の台頭という危機に警鐘を鳴らすべく、執筆されました。
人間を束縛から解放する自由というものには、人間に孤独感無力感を与える否定的な側面がある。
この指摘に大変驚かされました。
その後大学の授業で同著者の『愛するということ』を読み、民主主義のために戦う科学者の責任とその愛情に改めて感動しました。
私にとって世の中を生き抜く力の大切さを示し、励ましを与えてくれた一連の著作です。(花)


『古本屋の女房』田中栞/著(平凡社)

この本を読むきっかけは、他の古本屋の棚から自分の店に置く本を買う「セドリ」という仕入れ方法への興味からでした。
北は青森から南は神戸まで子連れの古本屋巡りは、読む側も個性的な店主たちと様々な分野の本に出会えて楽しく読書欲を掻き立てられていきます。
きっと「晴耕雨読」の案内役にもなるでしょう。
しかし、この本のクライマックスは、店と子どもを守る母親の驚くほどの強さを感じさせます。


『上海を歩こう』杉浦さやか/著(ワニブックス)

上海万博が始まって早1ヶ月、上海ってどんなとこ?と興味を持たれた方におすすめなのが、この本です。
私の好きなイラストレーター杉浦さやかの旅手帖シリーズの一冊です。
万博のためにマナー改善令が出た?と言われる、街中を堂々とパジャマで歩く人々や街頭にはためく洗濯物など、庶民の暮らしぶりや新旧の観光名所がカラフルなイラストと豊富な写真で楽しく紹介されています。
2002年出版なので、今ではかなり変わっているところもあると思いますが、100回以上借りられている人気作品です。


『ウィズ・ユー 若槻調査事務所の事件ファイル』保科昌彦/著(東京創元社)

はやらない調査事務所の探偵、高原はオンラインゲームの中での誘拐事件の犯人をつかまえてほしいという無謀な依頼を引き受けてしまいます。
パソコンに向かい、身代金の受け渡し場所を見張るのですが・・・やがて、彼はこの事件が15年前実際に起こり、迷宮入りした少女誘拐事件の模倣であることに気付きます。
昨今、ゲームの全盛時代ではありますが、この本を読むと読み物からも仮想空間を楽しめます。
くすっと笑えるところあり、ほろっと心温まる人情あり、さわやかな読後感です。
純アナログ世代の方にも、ぜひ。(な)


『獄医立花登手控え1〜4』藤沢周平/著(講談社)

医学修行を夢に見て江戸に出てきた立花登でしたが、居候先の叔母や従妹にこき使われ、挙句には牢医者の肩代わりもさせられ、囚人にからんでの色んな事件に巻き込まれますが、習い覚えた柔術を武器に立ち向かい、やがては医学修行のため大阪へと旅立つまでを、従妹との恋を絡めて描いています。
新米俳優だった中井貴一のNHKドラマ初主演作で、一生懸命演じていたのが印象に残っています。


『すてきなあなたに 1巻〜5巻』大橋鎮子/編著(暮しの手帖社)

雑誌「暮しの手帖」で1969年から現在も連載が続いているエッセイです。
日々の暮しの中のささやかな出来事や人との出会い、おいしいお料理のレシピなどが美しい日本語で綴られています。
私がこの本に出会ったのは高校の図書室でした。
何回も借りては返しをくりかえし、気にいった文章をノートに書き写したのを思い出します。
パタンと本を閉じた時、さあ頑張ろうというやわらかな気持ちにしてくれる1冊です。(F)


『細雪 上・中・下』谷崎潤一郎/著(新潮社)

大人になってわかる!
そうなんです。私は20代のときに読みかけたのですが、ダラダラと長くて、つまらなくて、途中で投げ出してしまいました。
ところが、今50代になって読んでみると、これがもう実にしみじみと味わい深くていいんです。
近頃あまり聞かれなくなった関西弁も懐かしくて心地よいのです。
ストーリーは大阪船場の四人姉妹の三女のお見合いから結婚に至るまでの話が中心に進んでいきます。
そのなかで結婚生活や家庭生活、姉妹や男女の関係のいろいろな話がダラダラと描かれています。
でも、そのことこそが人生そのものだと気づいて、またこれが実に面白いのです。
若い頃に読んだ方も是非また読んでみてはいかがでしょうか。(N)